星新一や筒井康隆ほか、多くのSF小説や推理小説の装丁デザイン、挿絵を手がけたイラストレーター真鍋博のアイデア創出エッセイ集。
真鍋博が表現するこの「交差点」とは、人と話している時、街角を歩いている時、電車の中など、交差点のように自分と様々な人や出来事が入り交じる、つまり、日常生活でのあらゆる接点。
そんな交差点で著者が着想を得た発想や解釈が、見開き2ページ単位というコンパクトな構成で108篇収録されている。
読み進めていくうちに、これはミーティングルームから場所を屋外に変えた、他人とのテーマ無き108のブレスト集ではないか?と読み進めていたら、著者のあとがきでもこう記されていて納得した。
この発想交差点は、自分の座標軸を絶えず動かすためのシュミレーション、または、セルフ・ブレインストーミングであった
僕の知見では、発想は既知の情報を素材に、ある刺激により、ふとひらめく。
例えば、数人でのブレスト中に聞こえてきた誰かのボソッとした発言、家の中でリラックスした時にたまたま目に入った物体、公共の場での不愉快な出来事など。
この発想交差点は77年から80年にかけて執筆されたもので、まだNTTではなく前身グループの電電公社や、JRの前身の国鉄の名前も話の中に登場する。
当時の風景を思い浮かべながら懐古的に読んでも楽しい。
40年弱の年月が経ち、時代の風景や人々の価値観がガラッと変わり、現代のテクノロジーによって効率的に解決された問題もある。
しかしながら、SFを熟知したイラストレーターによる夢想だにしない切り口の発想や解釈は、現代、もしくは近い将来においても通じる貴重なヒントとして得ることができた。
また、通常チーム内でブレストする時は、みんなブレストのルールをいちいち意識しながら行っていることが多いので、このように日常の目の前で即座に疑問に思ったこと・感じたことからナチュラルにアイデアを創出できることをあらためて認識した。
発想交差点のオリジナルは「真鍋博の発想交差点―四百字二枚半=108篇」として1981年に実業之日本社から出版されており、今回僕が購入して読んだのは1984年に文庫化の際にあとがきを追加した中公文庫が出版したもの。
真鍋博の書籍や図録、画集は絶版モノが多く、古本界隈ではとても高価な値段で取引されていますが、この「発想交差点」以外にも同じ中公文庫から「異文化圏遊泳」「歩行文明」、ちくま文庫から「超発明: 創造力への挑戦」「真鍋博のプラネタリウム:星新一の挿絵たち」が文庫化されており、これらは古本でも比較的安く手に入れることができます。