オライリーの『デザインの伝えかた』はディレクターも読むべき




 

プログラミング系の技術書でエンジニアにおなじみのオライリー出版のUXデザイン本シリーズ。

 

ステークホルダーにデザインの意図を正しく伝え、承認や合意を得ることは最適なUXを実現する

 

序盤はUXがもたらした近年のデザインの役割変化についてを振り返り、そして有効なコミュニケーションがデザインの決定過程においてどれほど必要不可欠なのか理解を深めてから、内容の濃い本題へと突き進んでいく。

 

Webサイトやアプリの制作を依頼をしてくるのはクライアントだったり自社の役員だったり。

 

他にも、一緒にプロジェクトのゴールへと向かうエンジニアやプロジェクトマネージャーなど、避けようのないステークホルダー(非デザイナー)たち相手に、デザインの専門家であるデザイナーが事業課題解決のためのデザインの意図をどう伝えることができるのか?

 

多くの修羅場をくぐってきたデザイナーである著者のTom Greever(トム・グリーバー)は、緊迫したステークホルダーとの戦略会議をS会議(ステークホルダー会議)と称し、非デザイナーとの接し方、考え方、会議に向けての準備や予防策、その場での対処法やステークホルダーの分析などを自身の豊富な経験の中から実例を交えてS会議の成功法を解説していきます。

 

1章にて、若き日のTom Greeverが、ある企業への就職活動で、マーケティング担当副社長との最終面接のやりとりの場面が印象的でした。

 

副社長は、

 

私が新しいプロジェクトを始めて、あなたに発注しようか検討しているとします。あなたなら最初に何を訪ねますか?

 

という質問に対し、Tom Greeverは、

 

印刷物ですか?ウェブサイトですか?カラーですか?白黒ですか?〜省略、そのウェブサイトあるいは印刷物は、何ページになりますか?納期は?

 

に対し、副社長は、

 

それでは困りますね。一番最初に尋ねるべきは『何を伝えたいか』でしょう

 

この『何を伝えたいか』という核心的な一言こそが、デザイナーのエッセンスなのかなと思いました。

 


デザインの伝え方

 

1章の実例と一言を念頭に置いて読み進めると、後に続く本題であるステークホルダーとの有効なコミュニケーションの具体的な実例や解説が全て紐付けられながら理解できると思います。

 

この本は、対ステークホルダー対策というだけではなく、デザイナー自身が自分の役割の一つとしてコミュニケーションの大切さを認識でき、「基本的にクライアントやステークホルダーはわがままで面倒臭い」という印象を持っている人は、読み終えるとだいぶ考え方が変わってくると思います。

 

自分が中心となって先導していくプロジェクトであっても、それは単に立場上の役割なだけで、ステークホルダーからしてみればデザイナーもステークホルダーなわけで、自分だけが正しいという考えではいけない。という忘れがちだったスタンスにも気づく。

 

一歩会社を出れば、ステークホルダーもデザイナーと同じ人間。

 

非デザイナーがデザインに触れる機会といえば、インターネットやスマートフォンが登場する以前は、駅や電車内の広告、好きな美術展やライブのポスターやチラシ、書籍の体裁などでしたが、今やWebサイトにアプリといった日頃の生活や人生に欠かせないUIツールを操作しながら毎日デザインに触れているといえます。

 

なので、いまの時代は非デザイナーでも自分が触れてきたUIデザインの経験がそのまま意見となりやすいのだが(それは悪いことではない)、やはりコンバージョンへの導線や、プロジェクトの目的を見失いがちになってしまうのもクライアントであり、ステークホルダーであり、非デザイナーであり、さらに言えば同じ人間。

 

戦略的で意図的なデザインに対してのステークホルダーのブレを軌道修正し、合意や承認を得るのに必要なのがデザインを伝え方である。

 

ここまで読んでいただければ、Webディレクターの方が読んでも面白い本だと思ってもらえると思います。

 

Webディレクターにとって女房役とも言えるデザイナーとの接し方、そのデザイナーのデザインに合意し、クライアントへの説明やその場での軌道修正に挑むことを考えると、Webディレクターにもおすすめです。

 

ちなみに、別の方の書評でも書いてありましたが、この本は翻訳がとても丁寧で分かりやすく、ステークホルダーへの具体的な発言例などの語彙は、そのまま実戦でも使えるようになっています。

 

数あるUX/デザイン系のオライリー本の中でもかなりの良書。