オライリーの『デザインの伝えかた』はディレクターも読むべき




 

プログラミング系の技術書でエンジニアにおなじみのオライリー出版のUXデザイン本シリーズ。

 

ステークホルダーにデザインの意図を正しく伝え、承認や合意を得ることは最適なUXを実現する

 

序盤はUXがもたらした近年のデザインの役割変化についてを振り返り、そして有効なコミュニケーションがデザインの決定過程においてどれほど必要不可欠なのか理解を深めてから、内容の濃い本題へと突き進んでいく。

 

Webサイトやアプリの制作を依頼をしてくるのはクライアントだったり自社の役員だったり。

 

他にも、一緒にプロジェクトのゴールへと向かうエンジニアやプロジェクトマネージャーなど、避けようのないステークホルダー(非デザイナー)たち相手に、デザインの専門家であるデザイナーが事業課題解決のためのデザインの意図をどう伝えることができるのか?

 

多くの修羅場をくぐってきたデザイナーである著者のTom Greever(トム・グリーバー)は、緊迫したステークホルダーとの戦略会議をS会議(ステークホルダー会議)と称し、非デザイナーとの接し方、考え方、会議に向けての準備や予防策、その場での対処法やステークホルダーの分析などを自身の豊富な経験の中から実例を交えてS会議の成功法を解説していきます。

 

1章にて、若き日のTom Greeverが、ある企業への就職活動で、マーケティング担当副社長との最終面接のやりとりの場面が印象的でした。

 

副社長は、

 

私が新しいプロジェクトを始めて、あなたに発注しようか検討しているとします。あなたなら最初に何を訪ねますか?

 

という質問に対し、Tom Greeverは、

 

印刷物ですか?ウェブサイトですか?カラーですか?白黒ですか?〜省略、そのウェブサイトあるいは印刷物は、何ページになりますか?納期は?

 

に対し、副社長は、

 

それでは困りますね。一番最初に尋ねるべきは『何を伝えたいか』でしょう

 

この『何を伝えたいか』という核心的な一言こそが、デザイナーのエッセンスなのかなと思いました。

 


デザインの伝え方

 

1章の実例と一言を念頭に置いて読み進めると、後に続く本題であるステークホルダーとの有効なコミュニケーションの具体的な実例や解説が全て紐付けられながら理解できると思います。

 

この本は、対ステークホルダー対策というだけではなく、デザイナー自身が自分の役割の一つとしてコミュニケーションの大切さを認識でき、「基本的にクライアントやステークホルダーはわがままで面倒臭い」という印象を持っている人は、読み終えるとだいぶ考え方が変わってくると思います。

 

自分が中心となって先導していくプロジェクトであっても、それは単に立場上の役割なだけで、ステークホルダーからしてみればデザイナーもステークホルダーなわけで、自分だけが正しいという考えではいけない。という忘れがちだったスタンスにも気づく。

 

一歩会社を出れば、ステークホルダーもデザイナーと同じ人間。

 

非デザイナーがデザインに触れる機会といえば、インターネットやスマートフォンが登場する以前は、駅や電車内の広告、好きな美術展やライブのポスターやチラシ、書籍の体裁などでしたが、今やWebサイトにアプリといった日頃の生活や人生に欠かせないUIツールを操作しながら毎日デザインに触れているといえます。

 

なので、いまの時代は非デザイナーでも自分が触れてきたUIデザインの経験がそのまま意見となりやすいのだが(それは悪いことではない)、やはりコンバージョンへの導線や、プロジェクトの目的を見失いがちになってしまうのもクライアントであり、ステークホルダーであり、非デザイナーであり、さらに言えば同じ人間。

 

戦略的で意図的なデザインに対してのステークホルダーのブレを軌道修正し、合意や承認を得るのに必要なのがデザインを伝え方である。

 

ここまで読んでいただければ、Webディレクターの方が読んでも面白い本だと思ってもらえると思います。

 

Webディレクターにとって女房役とも言えるデザイナーとの接し方、そのデザイナーのデザインに合意し、クライアントへの説明やその場での軌道修正に挑むことを考えると、Webディレクターにもおすすめです。

 

ちなみに、別の方の書評でも書いてありましたが、この本は翻訳がとても丁寧で分かりやすく、ステークホルダーへの具体的な発言例などの語彙は、そのまま実戦でも使えるようになっています。

 

数あるUX/デザイン系のオライリー本の中でもかなりの良書。




デザイナーファーストな組織デザイン方法。どのようにマネジメントをすべきか。

デザイナーファーストな組織デザイン方法。



 

2018年3月6日(火)、デザイナーファーストな組織デザイン方法。というセミナーに行ってきました。登壇者はこの業界では有名なチームに所属する方々ばかり。

 

デザイナーファーストという言葉自体はまだ馴染めないけど、今後デザイナーが日本に増え続けて欲しいと感じています。

 

理由の一つとして、少子高齢化問題におけるシルバー・イノベーション(高齢者向け技術革新)を起こす足がかりに、デザイナーの人口増加が好ましいと個人的に思っているからです。

 

デザイナーという肩書きではなくても、デザイナー的資質を持ち合わした人や、イノベーティブな人を評価するような価値観を備えた人が増えれば、日本企業の99.7%を占める中小企業にもデザイナーの価値が浸透し、楽観的な言い方をすれば「暮らしやすい世の中」になるのでは?と予測しています。

 

そして、僕が所属する組織にもデザイナーという肩書きの人が何人も在籍していますが、デザイナーの役割を活かしきれていない実情があります。その理由は下記の通り。

 

デザイナーを活かしきれていない3つの問題

  1. 経営層・組織全体がデザイナーの価値を理解していない。
  2. デザイナー自身がデザイナーの価値を理解していない。
  3. 価値を理解していると思っている人が組織に価値を浸透しきれていない。

 

3つ目の大罪を犯しているのが、僕と相棒のWebデザイナーです。

 

上記は自分が所属する組織の話であり、一口に企業といっても、そこには業種業態や職場環境、社内政治など組織によってケースは様々。

 

このセミナーでは、業種業態、職場環境などに左右されず、どの組織においても、組織改革やチームビルディングができる万能なフレーム!といったら都合が良すぎるので、共通して応用できる基本姿勢やマネジメントの話が聞けないかと思い参加しました。

 

組織特性の違いはあれどチームビルディングの基本は同じ

チームビルディングの5つの基本

  1. そのチームは何のためにあるのかの共通認識
  2. それに向かってそれぞれがやるべきことを認識
  3. メンバー全員がGIVERマインドを持ち共創
  4. ナレッジやノウハウなどを共有してスキルアップ
  5. チャレンジを後押ししてそれぞれが強みをさらに伸ばす

 

DONGURIの熊本氏は上記を挙げ、最初は結構常識的なことかな?と聞いてましたが、各施策で行なっている内容の徹底ぶりに耳を傾け続けました。

 

なかでも、合宿を行ってミッションとビジョンを策定したことに胸をつかれる。

 

大所帯ではなかなか難しいことかも知れませんが、「そのチームは何のためにあるのか」を、「その組織は何のためにあるのか」に置き換え、共通認識を高めるべき。

 

社内wiki作成、勉強会、Slackのニュースチャンネルの活用は自社のクリエイティブ部門でも行なってきましたが、組織特性は違えど、経営層も含め部門横断で行うのが理想。

 

「デザイナー」=「情報をいい感じに色や形にするのに長けた人、よくわかんないけど面白いアイデアを出す人」で止まっている経営層・組織全体を根本から改革するにはこれぐらいやらねばならないと感じました。




 

オペレーター型のデザイナーにクリエイティブを要求し失敗

Goodpatchの長岡氏のマネジメント失敗談や、同氏とFOLIOの橋本氏の採用視点のお話はためになったけど、自分の組織にとって絶望に近い感覚に陥りました。

 

自分の組織のデザイナー自身も、デザイナーの本質・価値に気づいてなく、ビジュアルの技術とセンスを兼ね備えていますが、クライアントや代理店、営業からの伝言ゲーム的な指示を淡々と消化するオペレーター型にあたる人なので、長岡氏がその型の人にチャレンジやトライの機会を作ってあげても結局退職してしまったという悲しい事例を聞く。

そこから学んだこと

  • 組織に合わない人を採用しない
  • そういった人のために適した仕事を与える

 

自分の組織でも、最近新卒採用で入社したWebデザイナーの子は近年のデザイナーの役割をある程度心がけている部分があり、育成に力を注ぐ余地は十分にあると思いますが、古くから在籍している上記のようなオペレーター型の人の意識改革は難しいと感じた。

 

こればかりは育成に力を入れてもお互いに時間を無駄にする可能性が高いので、もっとも根本的な採用の時点でフィルタリング、もしくは適した仕事を与えながら、まわりから徐々に文化的に意識改革していくしか手立てはないのではと思いました。

 

また、長岡氏も橋本氏も採用に関しては、自身の思考やカルチャーマッチングを大事にしたリファラルリクルーティングを強化しているとのこと。

 

これからのデザイナーのあるべき姿

  • マネージャーもデザインの対象が変わっただけでデザインすることに変わりはない。
  • マネージャーは人と組織をデザインする人。
  • デザイナーも上流工程から出席すべき。
  • ビジュアルだけではなく本質的にビジネスそのものを理解する。
  • ビジネス成果にコミットするために課題解決に向き合う姿勢。
  • 技術だけではない、狭まる視点を持たない。
  • ロジカルでエモーショナルなバランスが必要。
  • 個人の得意不得意領域は必ずある。まずは一つづつの完璧を。

 

昨今、ネットや本など様々な媒体でもささやかれているように、デザイナーであるべき姿は、手だけを動かすような色や形の具現化を作業的にするだけではないと言える。

 

上記だけではなく、担当領域によってはもっと多くのことを求められていると思けど、デザイナーに担当領域とそのスキルセットを等級的に段階を踏んでもらい、フォローアップしていくことでモチベーションが保たれるようにしていく。

 

セミナーの感想

今の自分の組織にピタリとハマるフレームは当然のごとくありませんでした。

 

しかし、マネジメント経験が豊富な登壇者の方々のお話は三者(社)三様でありながらも共通した部分も多く、それぞれの組織で取り組んでいる細いことや大まかな工夫・失敗談を掻い摘んでつなぎ合わすことで、自社でも改善できる希望が見えました。

 

皆が共通認識を持ち、楽しく成長していけるカルチャーを作ること。

 

さらに自分でも感じていたこと・実行していたことを再認識できたこと。

 

試行錯誤することを怠らず、トライアンドエラーを繰り返すことで、広範囲から組織をデザインし、デザイナーや経営層と引きも切らず接していくことで、デザイナーファーストな組織へと成長するのではとまとまった。




 

未経験Webデザイナーが教えてくれた『図解 モチベーション大百科』




 

去年入社したばかりの新卒Webデザイナーの女の子から借りてきた本。

 

約一年前の入社当初は、業務向上のために率先して本を読む子ではなかったのだが、彼女が未経験からWebデザイナーになって自主的に自分で選んで買って読んだ記念すべき一冊目。

 

タイトルを見せてもらった時に、

「まさか、僕のせいでモチベーションが下がっているのか!?」

と焦ったのだが、モロな自己啓発系の本というよりは、行動経済学と認知心理学の観点からあらゆるビジネスシーンをモチベーションというテーマに沿ってフォーカスした実用書でした。

 

とにかく読みやすい

本文は黄と紺の二色刷りで、堅苦しくない文章表現。

 

Web制作業界でも人気があるダン・アリエリー、ダニエル・カーネマン、ダニエル・ピンクといった学者・研究者の著書に書かれている実験結果を抜粋し、図解と、端的な結論と、編著者の説得色のある解釈が要約されている構成。

 

他人や自分に関聯する感情のメカニズムを1〜2ページづつ断片的に簡略にまとめてあるので、読み進めていく上でモチベーションが下がらぬままスラスラ読めてしまう。

 

てっとり早く理解しやすい内容なので、ハンドブックとして持ち歩きたいと思いました。

 

いろいろな場面で役に立つ

モチベーションというと、やる気や動機といった、人が行動を起こすために必要な原動力みたいなことが思い浮かびますが、もっと深く解釈すると、そこには大小様々な問題解決のための予防策やスムーズな対処にも発揮するのだと思いました。

 

そして、ビジネスシーンにおいての自分が関わる様々なこと。

「上司や部下とのコミュニケーション」、「顧客との交渉」、「捗らない会議の場面」、「チームビルディング」、「リーダーシップ」、「アイデア・発想法」、そして「自己管理」。

さらに、Webデザイナーにとって強みとなるであろう人間の行動パターンの知見も得られます。

 

本書の章立て

【CAPTER1】
動機づけのモデルケース

【CAPTER2】
人材育成のモデルケース

【CAPTER3】
目標設定のモデルケース

【CAPTER4】
意思決定のモデルケース

【CAPTER5】
人脈作りのモデルケース

【CAPTER6】
自己管理のモデルケース

【CAPTER7】
発想転換のモデルケース

 

図解 モチベーション大百科

 

感想・まとめ

Web制作、Webデザインの仕事をしていると、人によっては行動経済学や認知化学、認知心理学などに行き着きます。

 

今期、彼女にはコーディングやデザインなどの技術面やセンスを磨いてもらいつつ、Web制作のエッセンス、マーケティングやUXデザインの必要性、プロジェクト意識、チーム行動の重要性などを経験してきた中で選んだ一冊として納得しました。

 

行動経済学や心理学系の専門書は難しかったりするけど(もちろん読みやすい本もある)、巻末で紹介している有用な参考文献も多いし、この分野への興味をより高め、深掘りしていく入門書としての役割も持ちます。

 

僕は前述の行動経済学者の著書は大体読んでいますが、だいぶ昔にインプットしたきり記憶が薄れていることに気づき、今一度再読して、今後はアレンジとアウトプットをしていこうと思いました。




 

『矩形の森 思考するグリッド』創造の可能性を秘めた土台作り。




 

どんな媒体のデザインにおいても欠かせないグリッドレイアウト。

 

きちんと整列された格子柄のフィールド上でレイアウトを施し、ユーザーにとって理解しやすく最適に情報を整理する。

 

Webデザインの現場では、CSSで組むグリッドレイアウト(グリッドシステム)という構築方法が言葉としては馴染み深いと思いますが、正確にはグリッド自体はラフやプロトタイピングといった設計フェーズから用いられています。

 

コンテンツの優先順位や導線を意識した画面設計の場面において、ブロックごとのカラム分けを大雑把にペンで線引きをしたらそれはもうグリッドなのです。

 

そういえば、CSSを学び良い気になってたWebデザイナーだった頃から、グリッド自体について深く意識をしたことはなかった。

 

会社帰りに神保町にある建築や数学の書物が充実している古本屋さん明倫館書店に立ち寄った際に買った書物『矩形の森 思考するグリッド』がとても面白かったです。

 

矩形の森 思考するグリッド

 

94年に埼玉県立近代美術館で開催された展覧会『矩形の森 思考するグリッド』の図録です。

 

グリッドは先述の通り、Webやグラフィックなどのデザイン、建築デザインの現場でも多用されており、平面・立体関わらず昔からモノを作る時の拠り所としてきた主な構成方法。

 

また、アートの分野でも近代美術以降、ディ スティルやミニマリズムでも使用されてきました。

 

この展覧会・図録ではグリッドの変遷については特に取り上げらていなく、多角的な視点でグリッドを見つめています。

 

当時展示されていた、パウル・クレー、ディ スティル、アンディ・ウォーホル、草間彌生など国内外の23作家の作品が紹介されており、それらの作品は、

 

<分割と展開>

<連続と集積>

<ずれと気配>

<構造と意味>

 

の4つの章で分類され、各視点にて多様な姿で表現されたグリッドによる構築物の作品を楽しむことができます。

 

グリッドは様々な創造の立脚点にしやすいが、あくまで立脚点にすぎない。要求されているのは、そこから創造を、独自性を立ち上げることである。

グリッドという普遍的な構造を見据え、用いながらも、真の創造と独自の表現を立ち上げる。

これが、普遍と個の関わりを生み、魅力ある世界の開示をもたらすのである。

引用:埼玉県立近代美術館学芸員

 

グリッドとは、独自の価値をもたらす創造の可能性を秘めた土台作り。

 

ワイヤー作成、プロトタイピング、コーディング時のように素早く線引きしている現場環境で、今後そのことを思い出し、意識できればいいのですが・・・。




 

『デザインの次に来るもの』とは




 

年末になってやっと今年(2017年)発売された書籍のことを書きます。

 

デザイナーとは、色やカタチを成形する人なのか。

デザイナーとは、問題を解決する人なのか。

 

といったジレンマに陥る昨今、ビジネスにおけるデザイン・デザイナーの定義は広くなっており、その重要性は日本の多くの中小企業に浸透しきれていないのが現状(ネタバラしすると、それは我が国だけの問題ではない)。

 

さらに僕のまわりではデザイナー達が自身自分の肩書きの意味に解釈の違いがあり、自分の守備範囲はどこまでなのか?と戸惑っている様子も見受けられます。

 

デザインとは?デザイナーとは?というような本は時代々々で出版されてきましたが、この本は近年のビジネスにおけるデザイン・デザイナーの状況がまとめられており、そこには当然のごとくデザイン思考の話も出てきます。

 

その日本でも注目されてきているデザイン思考は果たして万能なフレームワークなのでしょうか。

 

UCD(人間中心設計)が包括するデザイン思考が機能しにくい条件を踏まえ、ミラノ工科大学のロベルト・ベルガンティ教授の著書『デザイン・ドリブン・イノベーション』で提唱された概念であり、デザイン思考とは対をなすデザイン戦略「意味のイノベーション」という価値の詳しい解説がされています。

 

当初、デザイン思考以外でのデザインマネジメントに興味が湧きこの本を読んでみたのですが、先述したように近年のデザインの状況・デザイナーの動向や、なおかつ、アーツ・アンド・クラフツ運動、ドイツ工作連盟、バウハウスといったデザインの歴史・変遷にも触れているので、やはりデザイン・デザイナー自体の力に興味があり、デザインのことを知りたいと思っている中小企業の起業家・経営者といったビジネスパーソンに向けかと思います。

 

もちろん、ビジネスやイノベーションと、デザインをすでに横並びに考えている人たちにも有用な内容ですし、違った視点でレビューすると下記のこんな人たちにオススメです。

 

  • 一応なんとかデザイナーだけどデザイン・デザイナーのことを深く知りたい人。
  • デザイン思考ってどうなの?と思っている人。
  • Webディレクター(僕)。

 

最終章では著者の一人、 八重樫文氏がこの本のタイトル「デザインの次に来るもの」に対しての説明で幕を閉じていますが、そこにはデザイン云々、企業人として当たり前に持つべき視点が込められていて深くうなずきました。

 

余談ですが、うちに会社見学にくる若いデザイン専門学校生に、バウハウスやデザイン思考のことを聞いても知らない人たちばかりで毎回ビックリしています。

 

デザイン専門学校では、センスの磨き方とかツールの使い方といった小手先のテクニックしか教えていないのでしょうか。




 

展覧会「インド・タラブックスの挑戦」@板橋区立美術館

世界を変える美しい本 インド・タラブックスの挑戦



 

インドの出版社タラブックスの展覧会があると知り、2017年11月26日(日)板橋区立美術館へ、「世界を変える美しい本 インド・タラブックスの挑戦」に行ってきました。

 

インド・タラブックスの挑戦のチケット

 

タラブックス

4年前だったか。僕が初めてタラブックスの出版物と出会ったのは、原題:The Night Life Of Treesを吉祥寺のタムラ堂さんによる日本語版仕様にした『夜の木』を手に取ったのが最初。

 

夜の木の絵本

『夜の木』

 

シルクスクリーン印刷によるなんとも美しく、そしてインクの匂いなのか、お香のようなエキセントリックな香りが漂う素敵な大判の絵本。

 

タラブックス(Tara Books)は、南インドにある、”手作り”の絵本の出版社。

 

『夜の木』が一部の人たちで話題となり、僕も当時SNS上などで”同じ穴の狢”の方々と情報交換をしていた時期がありました。

 

なにが”手作り”かというと、まず印刷の技法が、一枚一枚を人の手で刷るシルクスクリーン印刷。さらに製本もすべて手作業。

 

シルク印刷が味わいある綺麗な仕上がりとはいえ、オフセットやデジタルなど印刷技術が発展するこの時代に、手間の掛かるシルクスクリーンを採用し、なぜ世界中を魅了し、そして知れ渡ったのか。

 

世界を変える美しい本 インド・タラブックスの挑戦

板橋宿区立美術館の入り口

 

板橋区立美術館へは、2015年のイタリア・ボローニャ国際絵本原画展以来。

 

板橋区立美術館の階段

 

展示室に続く二階への階段は、板橋区立美術館ならではのわくわく感が倍増する施し。

 

タラブックスの歴史

 

タラブックスの歴史は94年まで遡ります。

 

『夜の木』の歴代の表紙

『夜の木』の歴代の表紙

 

圧倒的な『夜の木』の歴代の表紙たち。

 

『夜の木』の原画

『夜の木』の原画

 

そして『夜の木』の原画群19点。紙にペン、インク、アクリルなどで描かれています。

 

『水のいきもの』初版

 

2011年に出版された、『水のいきもの』初版。原題:Waterlife

 

『水のいきもの』の原画

 

同じく『水のいきもの』の原画6点。こちらも紙にペン、インク、アクリルで描かれています。

 

『母なる神の布』木版

 

『母なる神の布』の木版。

 

タラブックスの原画

タラブックスの原画

タラブックスの原画

タラブックスの原画

 

他にも全然知らない作品が多数展示されており、新たな発見と本展覧会の網羅性に圧巻。

 

板橋宿区立美術館の館内

板橋宿区立美術館の館内

 

『インド・タラブックスの挑戦』グッズ

『インド・タラブックスの挑戦』グッズ

 

展示室の下、一階(半地下)の物販コーナーでは、本展覧会のグッズが充実していました。

 

『夜の木』トートバッグ

『インド タラブックス』物販

『インド タラブックス』物販

 

『夜の木』のTシャツや、トートバッグは無条件でかっこいい。

ほかにタラブックスのトートバッグや、手ぬぐい、ミスプリントを素材にした缶バッジ、カード各種、シルクスクリーン印刷の展覧会ポスター、などなど、おそらく、ここでしか手に入らないタラブックスヘッズにはたまらない物ばかりでした。

 

僕の戦利品

『夜の木』カード

 

数ある濃い品揃えの中から、一番思入れ深い『夜の木』のカードのみを購入。

 

そして本展覧会のチラシを持って帰りたかったけど、館内のどこにも無い。

 

美術館の方に聞いてみたら、初日で無くなってしまったそうです(初日ってこの日の前日だぞ!)。

 

インド・タラブックスの挑戦のDM

 

しかし、見兼ねた美術館の方からDMをいただきました!

本当にありがとうございました。

 

感想

作品の素晴らしさは、タラブックスのことをすでに知っている人にとっては紛れもないことであり、また、この展覧会に足を運んでいない人に、この記事の画像などを通じて少しでもそれが伝われば幸いと思います。

 

タラブックスが十数万部級のベストセラーを生み出している理由の一つに、作家、画家、デザイナー、編集者、刷り師など一つのチーム全体が、独自の価値観と独自のやり方で仕事をしていることだと感じました。

 

たとえば子ども向けの本の場合は、男の子と同じ数だけの女の子もいるということを忘れないこと。主人公になれるのは男の子だけではありませんから。(ギータ・ウォルフ)

 

読み手のことを考えて、本を作るのは当たり前のことかもしれませんが、タラブックスはその人にとって価値がある絵本を制作するという社員全員のマインドセット、そして素晴らしい趣向をこらした作品に仕上げ、世界を魅了する手法でまい進するクリエイター集団だと認識しました。

 

初めて『夜の木』を知り、手に取り、タラブックスの世界に足を踏み入れ、熱中した一連の体験。

 

これは、僕がやっているWeb制作の仕事でも大事なことと改めて痛感しました。

 

今回小さな子どもと一緒に二人で行って、ゆっくり観れなかったということもあり、会期中にもう一度行こうと思います。

 

そのあとまたブラッシュアップができれば。

 

タラブックスの挑戦 垂れ幕

 

世界を変える美しい本
インド・タラブックスの挑戦

会期:2017年11月25日(土)から2018年1月8日(月・祝)まで
開館時間:9時30分~17時(入館は16時30分まで)
休館日:月曜日(1月8日は祝日のため開館)、12月29日〜1月3日
場所:板橋区立美術館
詳細ページ:http://www.itabashiartmuseum.jp/exhibition/ex171125.html
住所:東京都板橋区赤塚5-34-27
巡回開催:愛知県刈谷市美術館 2018年4月21日~6月3日

 

タラブックスのことがわかる関連書籍


世界を変える美しい本 インド・タラブックスの挑戦

 


タラブックス インドのちいさな出版社、まっすぐに本をつくる

 


夜の木

 




 

資格も取得できるUXDT:【第5回】セルフユーザビリティテスト検定講座

セルフユーザビリティテスト検定講座:UXDT

ユーザーが自身の目標を認識し、その目標を達成するまでの長いノープランの旅の途中で立ち寄る可能性があるWebサイト。

 

そのWebサイトにて、ユーザーの理解・操作をスムーズにしてあげるためのユーザビリティ。

 

2017年11月17日、UX DAYS TOKYO主催の【第5回】セルフユーザビリティテスト検定講座に行ってきました。




 

参加した動機

  • セルフユーザビリティテストの知識が学べる。
  • ワークショップでセルフユーザビリティテストを体験できる。
  • 試験が受けられ合格すると資格を取得できる。
  • 内容の割に安い(と、あとで思った)。

 

ユーザビリティテストは、ローンチする前や改修前に、対象となる被験者(ユーザー)を呼んできて、画面操作を行ってもらい課題を洗い出す重要な工程なのですが、プロジェクトによっては予算とスケジュールの関係で、実際に行えることが難しい実情があります。

 

とはいえ、どんな規模感であれ、Webサイトは人に利用してもらうプロダクトには間違いないので、最低限は自分たち(制作サイド)で、導線確認・操作テストを行い課題を見つけなければなりません。

 

自チームで行うユーザビリティの評価、それが”セルフ”ユーザビリティテスト。

 

イベントの大まかな流れ

  1. 座学(スライドを用い講師によるレクチャー)
  2. テスト(オンラインによる選択式・筆記テスト)
  3. 実践(チームでセルフユーザビリティテストの実査)
  4. 発表(実査で発見した課題の発表)
  5. 余談(講師による事例など)
  6. 懇親会(お酒、オードブル、名刺交換)

 

セルフユーザビリティテスト検定講座

座学

講師によるスライドを交えながら、ユーザビリティテストの必要性、有効性、種類、基本概念の知識を学ぶ。

 

ここでは、ユーザーを呼んできて被験者になってもらうユーザビリティテストを行えなくても、自チームでセルフユーザビリティテストを実施するだけでもWebサイトの品質に大きく差が出ることを認識しました。

 

テスト

座学のあと、Google Forms上で全10問のテストが受けられます。

  • 選択式9問
  • 筆記1問
  • 制限時間10分程度

 

基本的に座学の内容から出題されます。選択式とはいえ、引っ掛けが潜むので落ち着いて回答。

 

このテストに合格すると、UXDT公認ライセンス(民間資格)が取得できます。

 

合否発表通知は1ヶ月以内とのこと。

 

実践と発表

国内の有名な某運送会社と某酒類販売店のサイトを用い、近くにいる人と3人でチームを組み、被験者、モデレーター、記録係りに分かれてセルフユーザビリティテストの実査。

 

某運送会社では、僕は記録係りを担当しましたが、被験者とモデレーターの対面の位置に座ってしまったため、実際画面上で何が起きているのか解らず、被験者の思考発話を頼りにただの書記と化してしまいました。

 

某酒類販売店の時は、僕は被験者となり、当日の20時に冷えたビールを1ケース注文するタスクをこなすことに。いざ。

 

ユーザビリティテストのタスク

 

商品をカートに入れるところまでは進めましたが、フォーム入力でつまづく。

 

全体的に進めにくく、理解しにくい非常に非効率的なサイトの作に、同じチームのモデレーター役と記録係り役の方々と失笑。

 

そのあと、課題・問題の発表を行うのですが、それぞれのチームから様々なテスト結果が発表されました。

 

ツッコミどころ満載な両サイトだっただけに、笑いも起きながらの発表でしたが、これはプロジェクト完遂を目指す制作者側の立場だったら身も凍る結果だと思いました。

 

懇親会

イベント詳細ページには記載されていなかったけど、受講のあと懇親会が始まります。

 

ビール、焼きそば、オードブルなどを出していただき大満足。

 

今回、ディレクター、マーケターの方は10名ほど参加されており、僕はアプリエンジニア、フロントエンドエンジニア、Webデザイナー、プロデューサー、プロダクトオーナーの方々とお話ができ、ユーザビリティは様々な役割の人にとって重要視されていることを感じました。

 

感想

参加前から人気のイベントだと感じていましたが、セルフユーザビリティテストの実施体験や知識を得ることができ、試験を受けて合格すれば資格も取得できる充実した内容。

 

懇親会費、資格の受講費込みの参加費3,000円でかなりお得な時間が過ごせました。

 

UX DAYS TOKYOは、UX関連のイベントを開催しているので、UXデザインのお話も交えつつ、セルフユーザビリティテストの正しい心持ちとスキル、配慮すべきノウハウを学べます。




 

子どものUXデザイン 遊びと学びのデジタルエクスペリエンス




 

調査や行動観察・分析などを行い、利用者のことを先回りして理解し、製品やサービスとユーザーの接点に良い体験をしてもらう。

 

その貴重な時間を有効的に体験してもらうのは何も大人だけでなく、子どもに向けた製品・サービスにもいえます。

 

日々、テクノロジーとともに年々進化しているデジタルネイティブな将来の宝たちのためにも。

 

こんな人たちにオススメの本

  • とにかくUXデザインに興味がある人
  • 教育関係者
  • 0〜12歳までのお子さんを持つ親
  • 玩具メーカーのプロダクトデザイナー
  • 子ども向けテレビ制作チームの人

 

「UX」「エクスペリエンスデザイン」というワードに敏感に反応してしまう人は、この本のタイトルを見ただけでも興味が湧くと思います。

 

本来、子ども向けのアプリやWebサイト制作に携わる人たちに特化した本ではありますが、子どものためのUXの知見は、玩具や子ども向けテレビ番組制作などにも大いに役立つのではないかと思いました。

 

また、僕の場合ですが、Web制作者という立場とともに、いつの間にか親の気持ちになって本書を読み進めており、我が子への考え方、教育・子育てについても感慨深い気持ちになりました。

 

子どもというユーザー層の正体

実際に子ども達にWebサイトやアプリを開発するとしたら、自分だったらどうデザインするのか?

 

子どもをターゲットにしたデザインをするには、大人向けと比べたら「恐らくこう違うだろう」といった漠然とした注意点が予測できると思います。

 

例えば、

  • とにかくカラフルにすればいい。
  • 単純な構造にすればいい。
  • マウスオーバーなどフォードバックを大げさにすればいい。

 

以上のように、相手が子どもだからといって見下した姿勢で大人版よりも手を抜く感覚で臨むと、痛い目に逢うことが読み進めていくうちに分かってきました。

 

第3章では心理学者のジャン・ピアジェの認知発達理論という学術をもとに、子どもの発達の段階構造が記されています。

 

子どもは大人よりも知的能力が”低い”のではなく、年齢ごとに”もの事の捉え方が違う”そういう段階なのだそうです。

 

これを理解・認識せず、大人版よりも”楽”に考えてデザインをするとうまくいかないどころか、堂々巡りの泥沼化に陥る可能性が高いと思いました。

 

子ども向けに限らないUXデザインの考え

数あるUX本の中でも子ども向けに特化した本なのですが、大人と共通のデザイン思想も紹介されています。

 

ゴール(目的)に不釣り合いだったり的外れなデザインではなく、デザインパターンに一貫性を保つ。

 

支払い処理後に、類似商品を表示させるのではなく確認画面に遷移させるといった、操作をしていくうえで期待に添えた動きをさせる。

 

このように、UIに接している時の「安心感」を大事にすることは、子どもにも大人にも共通といえるそうです。

 

また、観察・分析なども共通の実施項目といえますが、子どものUXデザインは大人向け以上に力を注技、注意を払うフェーズだと思いました。

 

子どものUXデザイン ―遊びと学びのデジタルエクスペリエンス

読み終えた感想とまとめ

注目すべきは、全12章中、5章分が、2歳おきに子ども向けのデザインパターン、原則、性質、技法、サイトやアプリの実例、リサーチ及びテストの効果的な実施方法で構成されており、各年齢ごとに考慮しなければならないUXデザインの重要な点を知ることができます。

 

全体的にはデザイン面だけでなく、子どもにつきもである親への対応、子どもに降りかかるネット上の脅威といった注意点も含め、子ども向けのアプリやWebサイトを作るうえで知っておいた方が良い知見が網羅されています。

 

しかし、著者はアメリカ人で、欧米の子どもを基準とした内容となっているため、全ての注意点が日本で通じるとは限りません。例えば、デザイナーの法的義務のことも、あくまでアメリカの場合だったりします。

 

また、大人と共通の知見も得られますが、タイトルの通り子ども向けのアプリやWebサイトのUXデザインに特化した本なので、UXデザインをもっとワイドレンジに学習したい人向けだと思いました。

 

とはいえ、自分にとって「子ども」という今まで未知だったユーザー層と、その対応の仕方を理解できたので、読んでよかったと思います。

 

Webサイトやアプリを利用するユーザー(人間)は、何も大人だけではない時代ですので。