心理的戦略、たのしいプロパガンダ




 

プロパガンダという言葉が目に入ると何か物々しさを感じて今まで敬遠していましたが、ポップなタイトルと表1のデザインを見て思わず購入。

 

大日本帝国軍の「思想戦」で陸軍省の清水盛明中佐が、「宣伝は楽しくならなければならない」と説いていたことから章が始まります。

 

その大日本帝国、ナチドイツやソ連やアメリカなどの欧米諸国、北朝鮮や中国や韓国といった東アジアの近隣国のプロバガンダ戦略、そして国内外の宗教組織のプロバガンダ戦略、最後に日本国の政策芸術というパートで構成されており、「プロバガンダとは威圧的に押し付けるものではなく、娯楽などの楽しみや感動の中にメッセージ性を仕組む心理的戦略」だということを過去の実例をもとに紹介。

 

過去に実行されてきたプロバガンダ戦略の歴史を知り、現代の我が国日本で、もし国民に対してそういった思想実験が行われていたら、それに気づけるよう注意喚起をしている本です。

 

時の権力者・独裁者たちが様々なチャネルで実践してきた一般大衆や敵に思想を刷り込むテク。

 

プロパガンダ=「宣伝戦」だけに、予想以上にマーケティングなど自分の業務にも役に立つ本でした。

たのしいプロパガンダ
著者:辻田真佐憲
出版社:イースト・プレス

 

どの組織(国・軍)も、やはり民衆を主にメインターゲットとしていますが、反勢力(国・軍・団体)に向けても戦略を実行していることを知りました。

 

これについては、普段UXとかCXといったユーザーや顧客だけに意識を向けて戦略設計をしていることに対して、競合他社など対外的にも有効なのでは?と思い始めました。

 

競合を「巻き込む」といった点では、真っ先にキュレーションサイト戦略などが思い浮かびましたが、この本には別のアプローチによるヒントが隠されているような気がしました。

 

競合にもターゲットユーザーにも、いかに影響を与えるか。

 

この本ではそれを「楽しくなければならない」と提唱していますが、その「楽しさ」をどううまく使うかを考えるだけで、この本を読んだ人にとっては新しいアプローチへの発想がひらめくかも知れません。

 

また、独裁的政治活動や戦争のためとはいえ、昔から行われてきたターゲットの趣向に合わせた展開戦略、メディア戦略、セルフプロデュース、セルフブランディングなども参考になりました。

 

セルフプロデュース、セルフブランディングでは、どんなに論理的でもっともらしいことを提唱しても、伝える側や表現をする側が威圧的・高圧的な態度では説得者として不利になりかねないこと。

 

最後に、どうやって自然な流れでユーザーに認知しても、共感してもらい、行動してもらい、伝播させていくか。

 

という日々の考察のもと、今までは色んなクリエイティブやエンタメに注意を払ってきましたが、これからはこれらに加え、その裏腹にはプロパガンダが刷り込まれているのではないか?という警戒心も芽生えてきました。

 

たのしいプロパガンダのお勉強終了。




 

映画『めだまろん/ザ・レジデンツ・ムービー』

ザ・レジデンツのドキュメンタリー映画「めだまろん/ザ・レジデンツ・ムービー」原題:Theory of Obscurity: a film about The Residentsを観に、渋谷はシアター・イメージフォーラムへ7月8日(土)へ行ってきました。

 

シアター・イメージフォーラムへは2001年の『殺し屋1』実写版を観に行った以来でじつに15、16年ぶり。

 

レジデンツ初のドキュメンタリー映画ということで、この情報を知った時は興奮しました。

 

 

ザ・レジデンツとは

レジデンツのことを簡単に説明しますと、アメリカ西海岸を拠点に70年代から今も活動しているバンドです。

 

ここまではよくあるプロフィールですが、奇妙奇天烈な音楽、目玉のマスクにタキシードという格好をしてメンバー全員の素性が明かされていない、まさしく「正体不明」というのが他のバンドと違うといったところですかね。

 

日本だと、デビュー当時の宇多田ヒカルのプロモーション戦略を思い出しますが、レジデンツはそれを40年間も貫いていて、現在進行形なのです。

 

彼らの匿名性理論、曖昧理論(ファジー理論とは関係ない)は、人を惹きつける力があり、未だ多くの熱狂的なファンを抱えています。とはいえ、誰もが知るようなメジャーな存在ではないので、どのくらいのファンがいるかは解りませんが。

 

今年の3月にBLUE NOTE TOKYOでの再来日は都合がつかなく断念。それから本ドキュメンタリー映画の情報を耳にし、必ず行こうと思っていました。

 

今回の映画では、謎のサポートメンバーのギタリスト「スネークフィンガー」の映像が観れるのでは?レジデンツの正体が誰なのか?その手がかりを期待していました。




スネークフィンガーの貴重な映像は?

「スネークフィンガー」のフィリップ・リスマンは、チリ・ウィリ&レッド・ホット・ペパーズというパブロックバンドで活動する傍、スネークフィンガー名義でソロ活動。さらにレジデンツのサポートメンバーでもありました。

 

(そういえば、レジデンツが好きな電気グルーヴの曲でスネークフィンガーというのがありましたね)

 

クラフトワークのMODELのカバーと、レジデンツ名義でのローリングストーンズのサティスファクションのカバーでの、あのアイシーなギターソロは最高に好きです。

 

そのアヴァンなギタープレイが観れるかも?と期待してましたが、残念ながら拝めず。

 

登場したのは、レジデンツのボーカルがライブ時に着ていたTシャツの、スネークフィンガーのChewing Hides The Soundのジャケのプリントくらい。

 

でも、レジデンツのメンバーのスネークフィンガーに対する想いが伝わり、感動を覚えました。

 

レジデンツの正体が誰なのか?

以前、僕の音楽仲間の間でも、そのことを議論した思い出があります。

 

プライマスのレス・クレイプール?いやいや、全員、クロマニヨン(ニューヨークのフリージャズレーベルESPから1969年にデビューしたグループ)が前身なのでは?先ほど、手がかりが掴めればと書きましたが、この映画を観終わってからは、そんなことはどうでもよくなりました。

 

仮に、レジデンツの正体が誰なのか?もうありえないけどジョージ・ハリスンなのか?無名の人なのか?それを知った時点で、レジデンツではなくなると思ったからです。

 

その謎に満ちた状態だからこそ、数倍の魅力が発揮される。

 

だからもうレジデンツの正体には興味がなくなり、引き続き彼らの表現全体を楽しむことにしました。

 

最後に、そもそも質(レジデンツの場合、高い音楽性と芸術性とパフォーマンスなど)に魅力がないと、ブランディングというのは成功しないものなのだな再認識しました。

 

これが目玉論てやつか。

 

お土産に、公式パンフを購入し、レジデンツのガチャポンもやってみました。

 

レジデンツのガチャガチャ

 

当たったのは目玉のスーパーボールと、ステッカー。
連れはトートバッグが当たりました。

 

レジデンツめだまろん公式パンフ

 

パンフは読み応えがあるインタビューや、ジャケ原画やアセテート盤の写真が多く掲載されててマニアよだれものの内容。

 

映画「めだまろん/ザ・レジデンツ・ムービー」オフィシャルサイト

 

以下劇場情報

【東京】シアター・イメージフォーラム 公開日:7月1日(土)〜
【愛知】名古屋シネマテーク 公開日:7月22日(土)〜
【大阪】シネ・リーブル梅田 公開日:7月8日(土)〜
【兵庫】元町映画館 公開日:9月2日(土)〜




 

グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ

MARKETING

マーケターが「グレイトフル・デッド」の本を?

 

デッドヘッズが「マーケティング」の本を?

 

北区王子の古本屋、山遊堂さんの音楽書籍コーナーでこの本のタイトルが目に飛び込んできた時は、一瞬頭が混乱したと同時にすぐ手に取っていました。

 

「グレイトフル・デッド」にも「マーケティング」にも興味がある僕は、この本を日本に紹介した糸井重里さんの序文を読んですごく興奮しました。

 

そしてそのままレジへ。




グレイトフル・デッドと自分

グレイトフル・デッドとはヒッピーサイケの大御所的バンド。

 

僕も若い頃は長髪でそれっぽいファッションをしていた時期があり、デッドのレコードやCDも聴いていましたが、決して熱狂的なデッドヘッズ(グレイトフル・デッドの熱狂的なファンの事)という訳ではありませんでした。

 

でも、グレイトフル・デッドの音源を買っていただけでなく、当時乗っていたバイクにデッドベア(グレイトフル・デッドの子熊のキャラクター)のステッカーを貼っていたり、Tシャツも着ていました。

 

今思えば90年代、遠く離れたここ日本で当時若かった僕もグレイトフル・デッドが敷いていたマーケティング・プランに導かれていたのかも知れません。

 

グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ

サイケデリックな装丁デザインのこの書籍は紛れもなくマーケティングの実用書です。

 

とはいえ、AIDMAやAISASといった消費者行動理論、4P理論といったお硬い説明はありません。

 

グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ
「グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ」 デイヴィッド・ミーアマン・スコット (著), ブライアン・ハリガン (著), 糸井重里 (監修), 渡辺由佳里 (翻訳) 出版社:日経BP社

 

(2017年5月現在)6年前の2011年に日経BP社が発行・日経BPマーケティングが発売したこの本は、ビートルズやローリング・ストーンズほど知名度が高くないグレイトフル・デッドというバンドのビジネスの成功法が記されており、その手法はどれも現代のWebマーケティングと一致しているのです。

 

流行り廃りの流れが速いこの業界の実用書は数年経てば内容が廃れている可能性が高く、僕は1年〜2年以上前の実用書にはなかなか目を向けないのですが、好奇心で手に取ってみたら、現在でも全くを持って通用する内容でした。

 

各章は、「グレイトフル・デッドの成功法」「超有名企業やサービスの事例」「結論」でコンパクトにまとめられています。

 

今を時めくGoogle、Amazon、Dropbox、MySQL、マクドナルド等といった超有名企業やサービスの手法・事例は、グレイトフル・デッドが70年代から先駆けて実行していたのです!

 

  • ライブの素晴らしさ=質の高いコンテンツ
  • ビートルズと真逆な戦略=競合との画期的な差別化
  • ライブ録音の自由とオフィシャルリリース=フリーミアム

 

などなど(以上の手段はほんの一例)




感想

どれもマーケティングをやっていく上で大切な事ばかりですが、小手先のテクニックだけではなく、一番大切なのは消費者(ファン、リピーター)に対して誠実に想う気持ち。これは、今のSEO対策の根本的な考え方と似ていると思いました。

 

この本を読んで、人によってはマーケティングの本質を感じ取ることもできますが、マーケティングのみ焦点を当てた内容だけではなく、デザインの仕方、ビジネスそのもの考え方、企業人としての誠実さ、働き方、生き方まで考えさえられます。

 

6年前の本ですが、Webマーケティングをこれから学びたいと思っている方に充分おすすめです。

 

グレイトフル・デッドの渋い写真や、アーティスティックなイラストも載っていてデザイン性が高く、エッセイ感覚な文体で気楽に読める実用書。

 

プロジェクトマネージャー・マーケター・Webディレクターさんとかだけでなく、これからUI/UXを武器にしたいと思っているWebデザイナーさんにも有効かつ読みやすい書籍だと思います。

 

今回たまたま古本屋さんで購入しましたが、Amazonでも購入可能な様です。