昭和30年代の風景が今ここに。『秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本』




 

戦後、駐留米軍を経て、国鉄(現JR)のコンサルティングに就き日本に滞在したアメリカ人の撮り鉄、J・ウォーリー・ヒギンス氏がフィルムにおさめたカラーの東京、日本。

 

時代は平成の終わりが近い2018年現在から約60年前の昭和30年代。

 

今から60年前といえば自分はまだこの世に生まれていない。そしてちょうど両親が働き盛りだった時代。

 

なので当然僕は実際に見たことがない風景。

 

しかし、日影丈吉や安部公房といった昭和初期〜中期の東京や日本を描いている小説が好きな僕にとっては実際に見たことはなくとも、頭の中で思い描いていたことがあるどこか懐かしい風景であった。

 

黄色い山手線。

コートというより外套をまとっているような当時のビジネスパーソン。

空が高い渋谷の宮益坂。

ちばてつやの漫画に出てきそうなボンネットバス。

スッキリとした池袋東口。

渋谷・浅草・新宿・銀座の幻想的な夜景。

蒸気機関車が走る秋葉原。

GHQ用の看板を横目に走る路面電車。

ホーローの看板。

建設中の東京タワー。

道路が舗装されていない淡路。

 

現代の日常とかけ離れた当時の東京・日本へ、鮮明なカラー写真によってタイムスリップできる本です。

 


秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本 (光文社新書)

 

渋いワーゲンが走っている表紙は1957年の上野広小路。さて、奥の方では一体なにを建設しているのか。

 

450ページ強の新書サイズ。大判で出版してもよかったのでは?と思うリアリティを感じるカラー写真が多数。

 

この素晴らしく貴重な記録と、この時代の力溢れる日本人の姿と国の様子を、いま少子高齢化・人口現象問題に悩む現代の日本人に届けてくれたことを、著者のJ・ウォーリー・ヒギンス氏に感謝します。

 

お正月、実家に帰った時に持って帰って両親に懐かしんでもらおうとも思う。きっとタイムスリップすることに間違いないだろう。




ナチュラルにアイデア創出。真鍋博『発想交差点』




 

星新一や筒井康隆ほか、多くのSF小説や推理小説の装丁デザイン、挿絵を手がけたイラストレーター真鍋博のアイデア創出エッセイ集。

 

真鍋博が表現するこの「交差点」とは、人と話している時、街角を歩いている時、電車の中など、交差点のように自分と様々な人や出来事が入り交じる、つまり、日常生活でのあらゆる接点。

 

そんな交差点で著者が着想を得た発想や解釈が、見開き2ページ単位というコンパクトな構成で108篇収録されている。

 

読み進めていくうちに、これはミーティングルームから場所を屋外に変えた、他人とのテーマ無き108のブレスト集ではないか?と読み進めていたら、著者のあとがきでもこう記されていて納得した。

 

この発想交差点は、自分の座標軸を絶えず動かすためのシュミレーション、または、セルフ・ブレインストーミングであった

 

僕の知見では、発想は既知の情報を素材に、ある刺激により、ふとひらめく。

 

例えば、数人でのブレスト中に聞こえてきた誰かのボソッとした発言、家の中でリラックスした時にたまたま目に入った物体、公共の場での不愉快な出来事など。




 

この発想交差点は77年から80年にかけて執筆されたもので、まだNTTではなく前身グループの電電公社や、JRの前身の国鉄の名前も話の中に登場する。

 

当時の風景を思い浮かべながら懐古的に読んでも楽しい。

 

40年弱の年月が経ち、時代の風景や人々の価値観がガラッと変わり、現代のテクノロジーによって効率的に解決された問題もある。

 

しかしながら、SFを熟知したイラストレーターによる夢想だにしない切り口の発想や解釈は、現代、もしくは近い将来においても通じる貴重なヒントとして得ることができた。

 

また、通常チーム内でブレストする時は、みんなブレストのルールをいちいち意識しながら行っていることが多いので、このように日常の目の前で即座に疑問に思ったこと・感じたことからナチュラルにアイデアを創出できることをあらためて認識した。


発想交差点 (中公文庫)

 

発想交差点のオリジナルは「真鍋博の発想交差点―四百字二枚半=108篇」として1981年に実業之日本社から出版されており、今回僕が購入して読んだのは1984年に文庫化の際にあとがきを追加した中公文庫が出版したもの。

 

真鍋博の書籍や図録、画集は絶版モノが多く、古本界隈ではとても高価な値段で取引されていますが、この「発想交差点」以外にも同じ中公文庫から「異文化圏遊泳」「歩行文明」、ちくま文庫から「超発明: 創造力への挑戦」「真鍋博のプラネタリウム:星新一の挿絵たち」が文庫化されており、これらは古本でも比較的安く手に入れることができます。

 




 

「ロシアの装丁と装画の世界」図録

「ロシアの装丁と装画の世界」図録



 

先日行ってきた「ロシアの装丁と装画の世界」展の図録です。展示会場の「えほんやるすばんばんするかいしゃ」で購入しました。

 

「ロシアの装丁と装画の世界」展の記事

 

「今後、こんな沢山の旧ソ連時代のロシアの本を譲り受ける事はないと思うので、今回の展示に合わせ何らかの形として残しておきたかった。」

 

と、本展示会の主催者であり、本書の発行人である「えほんやるすばんばんするかいしゃ」の店主様からお話を聞きました。

 

その時、(ナイス偉業!)と僕は心の中で叫びました。

 

この図録はアートブックとして楽しめ、デザイン参考書としても有用であり、旧ソ連時代ロシアの書物の装丁画図版がこれだけまとまった数でなかなか見る事ができない、それだけ貴重な資料でもあるのです。

 

 

これだけでもかなりの点数の図版が掲載されていますが、僕は欲を出して「シリーズ化したら次も買いますよ!」と言ったら、「本は相当な数があるので、当初、表紙と見返しを別々に集約する案もありましたが、それぞれが単調な内容になる可能性があるため、今回1冊にまとめました」とおっしゃってました。

 

この図録を見終わった今さっき、(ナイスUX!)(ナイス組版!)と僕は心の中で叫びました。

 

 

表紙画と見返し画はページ毎にランダムに掲載されており、その変化のお陰で飽きないどころか、ページをめくる度にワクワク感もあります。

 

表紙の図版にはドロップシャドウが掛けられていて作品が際立っています。

 

スズキコージさんっぽい雰囲気と力強さを感じる見返し。

 

SF系の本?ストレンジサイケポップっぽいアートワーク。

 

一瞬、真鍋博さんのイラストかと思った。

 

撮影と掲載のお許しをいただいたので、気づいたら30枚くらい撮っていました。載せたい図版が沢山あるのですが、キリがないのでここまで。あとは買ってからのお楽しみです。



本文中に文字は奥付手前のあとがきのみで、オールカラーの図版のみ。各図版には、その本のタイトルやクレジットといった情報は一切ありません。

 

「ロシアの装丁と装画の世界」展の記事でも個人的な意見として書きましたが、この展示の魅力は、中身の内容(情報)ではなく、自分が気になった魅力的な表紙や見返しから感じとる個人の「自由な想像」にあると思います。したがって、この図録もそういった情報が不要だと思うのです。

 

以下「えほんやるすばんばんするかいしゃ」より引用:

■タイトル: ロシアの装丁と装画の世界
■発行年: 2017年 5月20日発行
■発行 / 編集: えほんやるすばんばんするかいしゃ
■サイズ: 14.8cm×21.0cm
■ページ数: 128ページ
■無線綴じ(ソフトカバー)/カバー付き
■カバー / 本文: オフセット印刷
■掲載内容

展覧会「ロシアの装丁と装画の世界」の
図録として製作した冊子です。
表紙と見返しの図版のみで構成されています。
本のタイトル、著者名、画家名、発行年などの
文字情報の記載は一切ありませんのでご注意ください。

■図版掲載数:278点

< 内訳 >
・表紙(裏表紙、背表紙含む):200点
・見返し:78点

 

展示場で販売してますが「えほんやるすばんばんするかいしゃ」のECからでも購入できます。
http://rusuban.ocnk.net/product/8764

※発行部数は現時点で不明。

 

発行人の「えほんやるすばんばんするかいしゃ」店主様の試行錯誤と葛藤のお陰で図録も展示も素晴らしい体験ができました。