フルスタックWebディレクターへの指標『Webディレクションの新・標準ルール』




 

特定分野の研究は深く掘り下げるクセがあるにも関わらず、Webディレクターを始めるにあたりこの手の標準ルール本からWebディレクションを学ぶという選択肢はなぜか今までなかった。

 

ここまでなんとなく歩いてはきたけど、口コミの評判が良かったこともあり、去年(2017年)『Webディレクションの新・標準ルール 現場の効率をアップする最新ワークフローとマネジメント』を購入して、やっと最近一通り読み終える。

 

うんざりするWebディレクターのスキルの広さ

目次を読むと、あらためてWebディレクターという仕事も”身につけるべき”と思われるスキルがたくさんあるんだなーと思いつつ後ずさりしたくなる。

 

当然わくわくしながら読み進める人もいるでしょうが、たぶん、この本を手に取る人はこれからWebディレクターを始めようという人が多いと思うので、この目次の項目数の多さにおののいてしまう人もいるのではないか・・・。

 

今思えば、自分が今まで標準ルール本からWebディレクションを学ぶという選択肢がなかったのは、こういった理由だったのかもしれない。

 

しかし、そういった人もちょっと考え方を変えれば、この本は普段持ち歩くに等しい良書となる。

 

この本に書いてあるスキルを全て体得してフルスタックなWebディレクターになるのだという考え方を一時的に捨てれば。

 

「ディレクションの目的と役割」「企画」「設計」「制作・進行管理」「運用・改善」と全5章にわたり、一人前のWebディレクターになるための必要不可欠な知識が完全といっていいほどコンパクトにまとまって網羅されている。

 

最初から読み進めれば読み進めるほど、たしかにどのスキルの習得もはっきり言って捨てがたい。

 

が、エッセンシャル思考の本を読んだときにも書いたけど、ここはあえてどんどん切り捨てる。




 

Webディレクターの守備範囲は人それぞれ

どんどん切り捨てると言っても、好きなところだけを読んであとは無駄という意味ではない。

 

Webディレクターも組織の環境によって役割の守備範囲がだいぶ変わる。

 

  • ほとんどの工程を内製できるWeb制作会社
  • 企画立案がメインの上流工程を主体としたマーケティング会社
  • メーカーのマーケティング部門、並びにインハウスWeb制作部隊
  • 印刷・製版会社の中のWeb制作事業部隊

 

自分のバックグラウンドも大きく影響するが、周囲の環境によって守備範囲が変わるのは物理的にも避けられない。

 

特に、比較的にWeb制作のリテラシーが高くないと思われる印刷・製版会社では、組織と自分(たち)との狭間で根本的な考え方の違いで苦悩と奮闘の日々を送ることになることが想定される。

 

ポジティブな行動として組織改革が考えられるが、そこに労力を費やす余裕はこの本を読んでいる時点ではきっとない。

 

人それぞれに合った効率的な読み方

したがって、その環境・案件に適用するスタイルを確立するためには、今の自分に絶対的に必要な知識からチョイスして読み進めることをおすすめする。

 

チョイスをしたら、その分野を別の本なり、勉強会なり、ネットなりでもっと深く掘り下げていけばいい。

 

当然、最初から最後まで一読しても面白くて有用な内容だけど、もはやWeb制作会社だけにWebディレクターがいるわけではない現在において、こういったチョイス方法は相応かと思う。

 

本書CHAPTER 1でも、事業会社の社内ディレクターの役割と必要なスキルセットも紹介されているほどだし、しつこいようだが、Webディレクターは受託会社だけに存在するわけではない。さらにUXなどの人間中心設計についても科目として取り上げられているあたりが、今回の標準ルールに「新」をつけた理由のひとつなのだろう。

 

繰り返しになるけど、この本は立派なWebディレクターになるために必要な知識が完全といっていいほどコンパクトにまとまって網羅されているので、現在のWebディレクションに関するスキルセット内容を俯瞰的に把握できるという点もこの本の特徴のひとつ。

 

そういった意味では、一人前のWebディレクターへの道を計画的にロードマップを立てるのにも使えると思った。

 

好きなところから読み進め、何かの壁にぶつかった時に開けば助け舟にもなるかもしれない。


Webディレクションの新・標準ルール 現場の効率をアップする最新ワークフローとマネジメント

 

この記事で紹介しているのは『現場の効率をアップする最新ワークフローとマネジメント編』です。

 

『システム開発編 ノンエンジニアでも失敗しないワークフローと開発プロセス』というのもあるので、気をつけてください。


Webディレクションの新・標準ルール システム開発編 ノンエンジニアでも失敗しないワークフローと開発プロセス

 

とはいえ、この開発編も非常に気になりますが。

 

本質を押さえてから

と、ここまで偉そうに書いてきたけど、本書の冒頭に以下の文章がしっかりと書いてある。

 

(省略…)では、上記(様々な技術や知識を要すること)を満たすため技術に長けたフルスタックなWebディレクターでなければならないのか?もちろんできればそれに越したことはないが、それがWebディレクターの本質ではない。……

 

前述のようにどこから読み進めるべきかは人それぞれだが、サブタイトルに「現場の効率をアップする最新のワークフローとマネジメント」とあるように、物事(プロジェクト)を円滑に進行することに重点を置く思考こそが、やはりWebディレクターが最初に身につけるべき最優先事項なのではと思う。

 

必要なテクニックが多く網羅されているともいえるのだが、「ディレクターはこうあるべき」という思考はとても大事で、本質を捉えてから多くのことを学んでいってっも遅くはない。

 

むしろ、このエッセンスを理解していないと、のちに多くのスキルを身につけていく過程で自分が何者だかわからなくなるという、急に自分探しの旅に出なくてはならなくなるという恐れがある(自分がその傾向にあった)。

 

ちなみにまったく別の本のだけど『ディレクション思考』という本はWebディレクターのエッセンスを刷り込むのに大変おすすめ。

 

初歩的な問題から効率化を図るテクニックまで

最後になって気になる内容についてだが、各科目についてははっきり言ってAmazonのなか見!検索を見ていただいた方が手っ取り早い。そこで目次も見ることができる。

 

本質を理解したうえでも、いざWebディレクターとして実際に走り始めてるとミクロな部分ですぐに壁にぶち当たる現実。

 

  • キックオフミーティングの開催はいつ?
  • どのサーバーを選べばいいのか?
  • 工数計算の算出法は?
  • MacだからExceでドキュメントを作ったことがない・・・
  • DNSって?公開のタイミングがわからない・・・

 

上記のような初歩的な問題から、「見込み案件の見極め」「運用後の課題管理」「商流のパターン」「Webサイトの検収の見極め」といった、さらに効率化を図るテクニックやリスクマネジメントまで。

 

そういったリアルな現場で直面した時に役にたつ対処、習得しておくとディレクションがさらに効率よくなる知識が、見開き2ページ単位で具体的に紹介されている。

 

僕は最初この本を知り合いから借覧していたが、現在はKindleで購入しMacBookでいつでもどこでも引けるようにしている。




Webディレクターの必須スキルを見極める『エッセンシャル思考』




 

Webディレクションのスキルセットの多さに悩んでいたころに読んだ「エッセンシャル思考」を再読しました。

 

初めてエッセンシャル思考を読んだ動機

Webディレクターに専念していくうちに、覚えなければいけないことが沢山あると思うようになり、早く一人前にならなくてはいけない!という焦りと、全てのスキルを体得できるのか?いや、むしろ何ひとつまともに体得できないのではないか?という不安に満ち、気持ちに余裕がなくなっていた時期がありました。

 

  • Web制作全般の知識
  • サーバー・ネットワーク全般の知識
  • コミュニケーション能力
  • マーケティング
  • プランニング
  • リーダーシップ
  • プレゼンスキル
  • アクセス解析
  • ライティング
  • 経営知識
  • UXデザイン
  • マネジメント
  • SEO
  • SEM
  • ドキュメント作成スキル
  • デザイン

 

上記のように、やがて大枠のカテゴリーから飛び出し、もはや重要項目のひとつとして独立し、圧倒的な人手不足に煽られながら、その後もキーワードは膨れ上がっていきました。

 

そしてこれらのキーワードはひとつの立派な惑星へと成長し、太陽系のように常に頭の中を順繰り周回することになり、

 

「マーケティング覚えなければ…。」

「いや、アクセス解析を先に覚えければ…。」

「いやいや、要件定義書を作れようにしなければ…。」

「あ、そうだ、マーケティングも覚えなければいけなかったんだ…。」

 

と、こんな感じに。さらに、

 

「ステークホルダーが役員だらけなので経営学も…。」

 

といった具合に、太陽系はおろか宇宙のように無限に膨張し始める始末。

 

貪欲に知識を手に入れること自体は現在も以前も苦ではなかったけど、この時は明らかに全てが散漫な状態。

 

その時に本屋さんで、

 

エッセンシャル思考は、単なるタイムマネジメントやライフハックの技ではない。本当に重要なことを見極め、それを確実に実行するための、システマティックな方法論だ。エッセンシャル思考が目指す生き方は、「より少なく、しかしより良く」。

 

と書いてある本の帯に目を奪われた。

 

これが、数年前に初めてこの本を読んでみようと思った動機。


エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする

 

エッセンシャル思考とは

「エッセンシャル」とは、本質的であり、絶対に欠かせないこと。

 

エッセンシャル思考は、少ない労力でより良い成果を出すこと。

 

そのためには、

 

  • 普段の業務や生活から多くのタスクを削ぎ落とす。
  • 降りかかる多くのタスクの増幅を予防する。
  • 一番重要なこと(エッセンス)を見極める。
  • その大きな成果や価値に向かって突っ走る。

 

そういったエッセンシャル思考になるための徹底した考え方、習慣、行動の方法論を応用することができ、この時は非常に役に立ちました。

 

今思えば、ここ数年よく聞く「断捨離」にも通じる、ミニマリスト的な思想にも近い。

 

クローゼットにある今後着るか着ないかわからない服へのバイアスの払い方についてのたとえ話なども文中に出てくるし。

 

そして、このエッセンシャル思考を応用して、頭の中で周回する惑星たちにストップをかけてみました。




 

Webディレクターの商品価値(本質)

エッセンシャル思考を踏まえ、Webディレクターという役割の本質を見極め、絞り込む。

 

文中に、Linkedinのディレクターが行なった「逆プロトタイプ」という手法が紹介されていました。

 

やって(作って)結果を素早く検証するプロトタイピングの逆、どんどんやらないことで、それらが現在必要なことであったかを検証する方法。

 

自分も、やらなければいけないと思っていてことをやめてみたら、案外やらなくて大丈夫だったことに気づかされるのでは。

 

いっぱしのWebディレクターがマスターしなければならないと思われるスキルセットをリストアップして検証してみたところ、マーケティングはマーケター、アクセス解析はアナリスト、UXはUXデザイナーというようにディレクターでなくとも賄える本職種がはっきりとわかってきました(最初からわかっていた筈だったのに)。

 

なんとも当然な結果に驚いた。何かをとるなら何かを捨てなければならないトレードオフというシンプルな考え方。

 

そして最後にどうしても捨てきれなかったのがプロジェクトのマネジメント。

 

進行力と管理力こそがWebディレクターの商品価値

 

自分はディレクターとして、メンバーをアサインするということを忘れ、全てのスキルを一気に体得しようとしていたことに気づく。

 

この本の章毎に常々要約されているエッセンシャル思考の人と非エッセンシャル思考の人との比較を見ると、自分はもろに非エッセンシャル思考型の人間だったのでありました。

 

Webディレクターには付加価値も必要

とはいえ、進行管理一辺倒のWebディレクターでは売れっ子ディレクターにはなれない。また、自分がWebディレクターの守備範囲のことで迷子のなったのはなぜか?

 

進行管理は円滑に進められることがなによりも好ましい。そのためにプロジェクトマネジメントを学び、スケジュールの引き方、要件定義、ステークホルダーの重要性などを学ぶ。ここまではなんとなくディレクターっぽい。

 

しかし、事業戦略のためのマーケティングツール「Webサイト」制作のディレクションを円滑に進めて行く中で、クライアントやマーケターとやりとりするためのSEOを含むマーケティングの知識が必要になってくる。

 

クライアントとディレクターが実装したい機能があれば、エンジニア、PM、PLに説明ができて、さらにフィードバックを理解するための技術知識が必要となってくる。

 

これらに事例はすべてディレクターの商品価値である進行管理を円滑に進めて行くために生まれる付加価値であると考えます。

 

この付加価値の必要性は、担当する案件の目的、予算、スケジュール、スコープによって決まります。

 

世間のディレクターがあれもできてこれも詳しいからといって、あらゆる付加価値を一挙に習得しようとせず、やらないことを切り捨て、まずが本質をしっかり習得することが大事だと思いました。